デザイナー・大森泰二郎
目次

デザイナーの、0から1を生みだす思考やエピソードを伺いました。作品解説ではなく、クライアントの分析から、先に居る顧客の分析、それをもとに課題を浮き彫りにして解決のデザインを模索する。そんなデザイナーの頭の中を覗いてみます。

ポストが赤いのはなぜなのか?

その1

その2

その3

その4


01

ポストが赤いのは何故なのか。熊本県は御船町のキャラクター「ふねまる」などを手掛けたグラフィックデザイナーの大森さんにデザインアプローチの考え方を伺いました。

これなんですけれども…

写真1

住宅会社さんのパンフレットですか?

そうです!
(熊本県南部の)天草の山口工務店さんから、30代や40代の方々に住宅を販売したいというご希望がありまして。地元では公共工事のイメージが強いので、イメージ一新を。 

「広く大勢に」ではなく地元に対してって事ですね

そうです。
ヤマコウ(山口工務店)は、なんか変わったなぁって。住宅もやっているよね、って。いま、公共工事と並行してメーカー住宅の施工も請け負っていましてね。社長さんがものすごく勉強されているんですよ。だから、最新の素材なんかもよく知っている!

強みですね!

実は今の社長は、僕の高校の同級生が実家を継いでいるん ですけどね、高校の時はボクシング部でして。 試験の時なんかは、減量がキツくてボーッとしているような ヤツだったんですよ(笑) でもね、大人になって付き合ってみたら印象が変わっちゃって。 物凄く真面目な奴になってたんです。 とにかく勉強熱心。 見るべきものがあれば、北海道でも飛んでいきますし。 全国を飛び回って勉強してるんです。

素晴らしいですね。

これまでに、ハウスメーカーのお仕事をさせて頂いたことはあるんです。 でも(ヤマコウさんは)どこよりも勉強して、職人さんの技術力もあって、そのうえで真面目に良い家を建てる ことを考えている。でも、古くからのイメージでは「公共工事の建築屋さん」。 それを変えていきたいんですよ。矛盾しているけど、会社の歴史というのも伝えなければ… これが出発点ですね。

要素が絡み合ってますね…

その表現を考えるために、ほとんどのハウスメーカーの パンフレットを集めて研究してみたんです。 そうしたらね、全て似てるんですよね。 デザインの方向としては、ミニマムなデザインといいますか。

それらに勝たなくてはいけないんですよね。

そこで考えるんですよ! 競合他社がみんな似ている… じゃんけんでいうところの、チョキをみんなが出している状態。 その中でチョキを出すのではなく、グーを出す努力をしようね って、話をしたんですよ。 そこから、グーを考えるわけですよ。

グーを出すという事

グーは一体何なのか…

これが難しいんですよね!(笑)

(考え込む)

かなり難しいんですよ(笑)グーって何なのか。 僕は頑張って考える!としか言えないですけれども 仮にパーになったとしても存在感が出るでしょ。 だから、チョキをだすより絶対いいよ!と話して 始まっていったんですよね。 そうしたら、ヤマコウさんもそうしよう!って。

楽しみになってきましたね。

結果から言うと、 ハウスメーカーさんのパンフレットの中にこれがあると 完全に浮くんですよ!!

そ・・そうですね。

“チョキではない” のは確かなんですよ。

そうだと思います。

パンフレッツ

で、この表紙になるんですけどね。 高性能な家ということは出さないといかんので、 ショルダーコピーは[きちんと高性能]。 大工さんが昔から積み上げた技術で作るんだけど、 高性能なんだよって。

期待が持てますよね。

ヤマコウっていうのは、あくまで地元での愛称なんですよね。 なので、「YAMAKO」と。 「山口工務店」ではないんですよね。 そのほうが若い人にとっては受け入れ易いでしょ。 それで住宅は、きちんと高性能の「YAMAKO」ブランド で知ってもらおうと。 きちんと高性能の家を建てる「YAMAKO」 ちなみにこれ(表紙のモデル)は、実在の棟梁なんですよ(笑)

実在の!

ですね。 中身はちょっとチョキになったかも…(笑) でも、最初に目に飛び込んでくるところはグー になったんじゃないかなと…

いやいや、中身はチョキだなんて(汗)

ものすごく格好いいというよりも、優しい感じ。 このビジュアルがあるおかけで使いやすくなって、 展開しやすいデザインになりましたね。

中身を見ていくと、誠実さも伝わってきますね。

そうですか! それは良かったです!

はい。表紙とのギャップで、より信頼感が沸くというか

実は、このパンフレットができた直後にですね、 メーカーの営業発表会があったようで。 このパンフレットを、そこで発表したらしいんですよ。

え!全国の場で

そうしたら… すごく受けがよくて!! 全国の同業者の評価が高く、みなさんが欲しがって くれたそうです。

おー!! では、そこからの依頼なんかも??

僕にあればいいんですけども… 地元で作ってもらうから真似していい? という話は、とても多かったらしく…

…あれ
こちらはまた全然違った表現ですね。

パンフレット2

こっちですね。 豊工務店さんのパンフレットです。 こちらも、次の世代の方が会社を引き継がれて 創業から60周年の節目の年を迎えられたんですよね。 熊本ではAクラスの工務店さんでして、 僕も通った東海第二高校などを施工されたりしてるんですよ。

かなり大手ですね!

そう、宇宙情報センターや東海大学も施工されてるんですよ! でも…何の広報活動もされてない。

何も?

熊本駅前や県立東陵高校の体育館などもされているんですよ! すごい実績ばかりの会社なんです。

すごい会社さんじゃないですか!!

豊さんの良いところは、社員の方が長く勤められるんですよね。 で、社員一人ひとりの方々に依頼が来る。 なのに、独立開業される方々がいない。

それは素晴らしい!

最初に会社を訪問させてもらったときですね、 この標語が目に入ったんです。60年前からあるらしいんですよ。 真面目に良いものを作ろうという社風が、事務所のインテリア からも伝わってくるんですよ。 良い会社だなあって。 さらに、ご自分達のことをアピールもしないんですよね。

能ある鷹は爪隠すっていう。

そう。 それが豊さんの良さで。 真面目にコツコツという社風で。 創業者の方から厳しく育てられたことを、良い思い出として 語る方が多いんですよね。

人格者でいらっしゃったんですね。

そうなんでしょうね。 創業者の思いが息づいて、真面目に良いものをコツコツ 作っていこうという思いを長年貫いてこられた。 そして、評価を得た会社なんですよ。 さらに、自己アピールもしない。 そういう良い会社なんですよね。

クチコミだけでお仕事の依頼が来る会社なんですね。

そう。 それを「表紙」で表現したかったんですよね。

ヤマコウは、 どうだ!!という風にしたんですが、 豊さんはですね… ほら! これ!(表紙を指す) 創業者さんの手書きの図面なんですよ!! それをエンボス加工で表現したんです。 あえて控えめに表現したかったので色もなく 凹凸だけです。 あとは、会社名だけを出しました。

シンプルな名刺みたいですね。

そう! 控えめに表現したかったんですよね。 でもよく見ると、「なるほどな」という物にもしたかった。 豊さん“らしさ”を表現できた良い実例だと思っています。

これは、豊さんも気に入って下さって! 副社長さんからも良いねーと評価してもらえました。 「いいねー、表紙が良くてなかなか中身に行かないねー」(笑) って。

大成功ですね!

ものすごく嬉しかったです。

パンフレット制作の目的が違う2社の例ですね。

豊さんは、ものづくりの実力が高いのに “表現”されてなかったんですよね。 同業他社からは評価が高いのに一般の人には伝わってない。 それが、もったいなくてですね。 それを、「どうだ!」という表現ではなく“らしさ”を伝えようと。

難しい仕事ですね。

そう。 難しいんですけれども、デザインで表現したいなと。 言葉も使わず、表紙はうまくいったと思います。 中身は、色々と語ってはいますがレイアウトは控えめに。 あえて写真も全面で使わずに。

実はですね・・・・ 制作前に、社会貢献の取り組みなど会社の理念などを図解して 表現して社長さんにお見せしたんですよ。

そうしたら?

…却下されまして。

え?どうして。

これは、豊さんの社長さん自身でしなきゃいけないことだ と言われまして

素晴らしい社長さんですね! こういうふうに、コツコツ仕事をされる方っていらっしゃる と思うんですが、だいたいアピール下手じゃないですか。

そうですね。

そういう人たちって、どう表現したらいいんでしょうね。

それは、“らしい”やり方をすることでしょうね。

“らしさ”って、どう表現するかが難しいからプロに お願いしなきゃいけないんですね。

確かに難しいです。 でも僕は、チョキを出しませんよ(笑)

(笑) 同業種なのに、こんなに表現が違ってくるんですね。 少し話が変わりますが、 そもそも、この仕事を始めるきっかけって何ですか。

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